書評 | レビュー | 日本人の9割が知らない遺伝の真実

2023/08/28

安藤寿康 行動遺伝学 書評

本書を読むべき方

  1. 親ガチャ失敗した方
  2. 子ガチャする(した)方

    本書を読むべきでない方

    1. 能力主義を肯定したい方

    本の評価

    ★★★★★ 万人に強くおすすめしたい。繰り返し読む価値がある。(リンク先に評価基準を記載)

    読みやすさ

    統計学の知識があれば理解しやすいです。
    といっても相関関係が分かるレベルで問題なく理解できますし、簡単な解説があります。

    内容

    2~4章が行動遺伝学関連である「遺伝の真実」の内容になります。
    「遺伝の真実」を受けて教育学博士の観点から現代社会への提言を行っているのが本書の特徴です。

    書評者情報

    所要時間:3時間
    執筆時間:3時間
    読書周回数:1回
    書評者ポジション:行動遺伝学初見者

    読書メモ

    1章 不条理な世界

    かけっこ王国という架空世界を用いて、
    知能王国である現代社会の不条理さを比喩している。
    そしてその不条理さを知らないヤバさを読者に投げかけている章

    2章 知能や性格とは何か?

    知能や性格に関する理論をもとに知能や性格とは何かを解説する章

    知能とは

    • 多重知識理論
      従来教育分野で有力視されていた、
      各分野(論理性、一般に運動神経といわれるもの)の
      知能に分かれているという理論
    • 一般知識理論
      ベースとなる知能部分があり
      その上に各分野(論理性、一般に運動神経といわれるもの)の
      知能があるという理論

    性格とは

    Pick

    どんな能力も社会的に認知されてはじめて能力(P40) 

    社会的に認知されなければ能力ではない、という定義については疑問が残る。
    例えば孤独な人は能力がないことになる。
    マイケル・サンデル教授の「能力主義は正義か?」あたりと絡めてレビュー内容追記したい。

    3章 心の遺伝を調べる

    知能や性格が遺伝で決まる要素が一定量あり、
    人間の行動の殆どは遺伝+非共有環境で説明できることを解説する章
    知能や性格といった、人間の心ははたして遺伝するのか。遺伝するとしたら、どれくらいの影響を与えているのか。これを科学によって明らかにするのが行動遺伝学(P60)

     知識や性格を人間の心として捉えたことがなかった。筆者の専門の1つである教育学ではそのような捉え方をしているのだろうか?

    双生児法を用い、相関係数で類似性を表している。
    指紋パターンはほぼ遺伝で決まるが、他の要素も遺伝の要素が大きい。
    遺伝以外の要素を以下のいずれかとして扱う。

    • 共有環境
      似させようとする環境
    • 非共有環境
      異ならせようとする環境
    →同一の事象でも非共有環境として作用するケースがある(個人の受け取り方次第)

    4章 遺伝の影響をどう考えるか

    遺伝の仕組みと遺伝の影響について解説する章

    遺伝の仕組み

    親と全く同じ特徴を持った子どもが生まれることは極めてまれだということがわかります。わたしが「遺伝は遺伝しない」 という所以です。

     遺伝は遺伝しないというが、同じ理屈で親と全く異なる特徴を持った子どもが生まれることも極めてまれである。「遺伝は親から遺伝する」のではないだろうか。二項分布の端のように。

    • 相加的遺伝効果
      各遺伝子に-1,0,+1があり、両親の遺伝子を受け継ぎ、二項分布に従う。
      →遺伝子的優位性(+1)をもつ親から生まれた子が有利。
    • 非相加的遺伝効果
      単純な足し合わせではない遺伝
      例:メンデルの法則(優性と劣勢)
      両方の側面をもつ遺伝子がある
      デメリット:鎌状赤血球貧血症という重い病気になる
      メリット:マラリアに罹りにくくなる
      2章のGFP(general factor of personality)(一般性格因子)理論にも効果がある

    以下は全て遺伝次第

    • 子どもが物事を好きになり、やり続けるか
      家が裕福なほど、色々な知的活動に手を出しい遺伝的才能を発現させられる可能性が高い
      ただし、英才教育により見つけられる才能は芸術やスポーツなど個人の特定分野に限られる
    • どの領域でどのレベルまで到達できるか
      才能を発現させるための教育環境は必要
    • 男性の収入への遺伝影響のピークは45歳で50%、20歳時点では20%
    • 女性の収入への遺伝影響はほぼゼロ%
    • エピジェネティクスの将来性
      外的要因によって遺伝子による発現を変化させられる可能性もある
    • 優生学は正しいのか
      マウスによる実験では活動性が高いマウスと低いマウスとを区別できるようになるまで30世代かかった
      →平均値への回帰傾向あり
      →マウスの単純な形質と人間の複雑な形質を同一視できない
      5と5の親から3~5の子、1と1の親から1~3の子、3と3の親から1~5の子
      →5と5の親から生まれる子が有利
    • 遺伝子検査のすすめ
      将来の罹患する病気の予測など
    >

    遺伝以外

    • IQの世代間格差
      後の世代ほど抽象の高い論理的情報処理能力が高い(フリン効果)
    • 非認知能力は仕事の成功に影響を及ぼす
      幼少期の教育的介入(勤勉な態度を身に着けさせる)が成人後に与える影響あり
      アメリカの幼稚園でランダム化コントロール実験を行い40年に渡り調査

    5章 あるべき教育の形

    教育学博士としての教育への提言がされている章

    教育とは

    知識のない人に知識を、能力のない人に能力を身に着けさせるもの

    現代社会(あまねく教育が行き届いた世界)における教育とは

    能力を導き出すもの、個人間格差を拡大させるもの
    素養がある人はどんどん伸びる、ない人は伸びない
    日本社会では不当な頑張りを強制されている
    →無理のない勉強を継続することが重要
    • 安定した社会関係を築ける人数は150人程度
      科学技術や複雑な社会制度から形成される現代社会において
      抽象的思考力が重要視される
      →ロビン・ダンパーからの引用。ホモサピエンス全史でも引用されていた
    • 新しい遺伝的形質が顕在化する時代
      AI、Youtuber、etc...
    • 12歳が大人になるタイミング
      脳が9割程度出来上がってくる
      どの文化圏でも大抵大人と見做される
      →どんな遺伝的形質が発現されているのか見ることが重要
    • 学歴はどの程度の能力を持っているかの指標
      →車を運転する上で必要な最低限の能力を担保する免許みたいなもの

    6章 遺伝を受け入れた社会

    教育学博士として社会への提言がされている章

    社会を「キッザニア化」せよ

    • 学年制の廃止
      自動的に進級し能力が身につかない
      劣等感を積み上げるだけ
      素質のない分野での努力を強いている
    • 能力制の導入
      知識の習得度を科学的に測定する方法の開発提案
      ex.TOEIC,TOFEL,etc...
      →現状の資格でも十分なのでは?
    • 解雇規制の撤廃
      筆者にはこの章で触れられていないが、
      素質のある分野で活躍できるよう人材の流動化を促す必要がある

    能力がない人の生存戦略

    • 比較優位を目指す
      成績が悪い=素質がないシグナル
      そこそこの規模のコミュニティで活躍できれば社会貢献可能
    • 潜在優位
      筆者独自概念
      新しい仕事を開拓する

    制度による保障

    • 社会的に認められる能力を備えていない人への保障
      ベーシックインカム

    書誌情報

    筆者

    安藤 寿康

    形式

    紙/電子書籍(AmazonKindle/楽天Koboで確認)

    初版出版年月日

    2016/12/15
    ※紙初版の発行日を記載。Amazonの表記とは異なる

    ボリューム

    223ページ